啐啄(そったく)同時 ダテ薬局より

先日、大学演劇部のOB公演がありました。

私の娘は、高校まで美術部、文芸部、声楽部等の仲間との活動を楽しんできて、また幼いころから続けたバレエの舞台への想いなどもあったのでしょうか、大学から演劇をはじめたのです。舞台に、「日常から離れた夢のような世界と、役者の呼吸」を感じ、そして「夢と現実が仲良く同居している空間」そういった矛盾が面白く、惹かれるようです。

公演はたいてい3回あって、私は初演を観ました。若い観客たちは終わってからも、アンケートに熱心に鉛筆で書き込んでいます。私は宇和島への帰りを急ぎ、ざっとしか書き込めないのが心残りですが、帰り道では、ひとり、ほんのりと心温まるものを感じています。

娘は引退公演では演出だったので、久しぶりの役者は緊張したようです。「観客ののりが悪いとテンションが下がる」「笑ってほしいところで、笑ってもらえないと・・・・・」(もちろん、芝居のできによるのでしょうけど)役者には観客の様子がよく伝わっていて、観客によって芝居も変わってくるといいます。舞台は役者と観客で創りあげるものなのでしょう。

何かでふと知った「啐啄(そったく)」という禅の言葉を、ここに感じます。

卵の殻を内側から雛がコツコツとつつくことを「啐」といい、ちょうどその時親鳥が外側から殻をつつくことを「啄」といいます。無心につつく雛と、外側から無心につつく親鳥の「啐」と「啄」、両方が一致して始めて雛が無事に生まれてくるのです。互いに意識せず自然に、同時に向き合うのが「啐啄同時」で、決して相談しながら同時につつくのではないのです。

子どもから学生、社会人となり、医療に携わる一人として突っ走ってきた私のこの♡♡年間、自分自身では気づいていないことがどれほどあることでしょう。これまでのほんの一瞬のさまざまな出会いに「啐啄同時」という機縁を感じます。

薬局では毎日、患者様にお待ちいただくことも多く申し訳なく思っています。患者様はきっとそれぞれの思いをお持ちのことでしょう。私は患者様とお話してたくさんのことを学ばせてもらっています。お一人おひとりとお話できるとき、この「啐啄同時」の関係であったならどんなに素晴らしいことかと思います。早く外に出たい雛の気持ちに寄り添って殻をつつく親鳥でなければ、つつき方次第では迷惑でしかないでしょう。反省の毎日ですが、少しでも自分にできることをお伝えできたらと願っています。

1年ほど前、ドライブで立ち寄った道の駅のパンフレットに『啐啄』の文字を見つけました。城川郷の雫酒「啐啄(そったく)」です。お酒の飲めない私ですが、ネーミングに惹かれてぜひ味わってみたくなりました。地元の酒店に何度か訪ねたのですが手に入らず、「幻のお酒」とあきらめかけていたところ、ひょんなことから親切なS氏に教えてもらい、市内の知り合いの酒店で購入することができたのです。

瓶のラベルには「飲み手と造り手の心が相応ずることであり、心にふれる酒を醸すことを願って命名しました。」とありました。

そして私にとって雫酒「啐啄」は大切な人と大切なときに楽しみたいお酒となりました。

text by R.K
粘土細工 K.S

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